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ピリオド

事の発端は、ハニスタからの一言だった。

「もうじきサロウの誕生日なの。
私が聞くより同性のサグが聞いた方が本当に欲しいもの言えると思うのよね~、疑われる可能性も低いしさ。
お願いっ!あいつの欲しいものそこはかとなく調べて来て~!」

そこはかとなく、とは? そう聞いてしまった俺に、そのようなミッションをクリアできると思っているのだろうか。

(野良屋に輸送隊発足フラグ。
男ばかりの長い話です)


「サグと2人で飲みに行くの久しぶりだなあ」
隣で笑顔を見せたのがターゲット。
コイツの本気で欲しいものを探るのが自分に課せられた使命である。
ハニスタは友人部隊の宿舎に泊まるとウキウキ顔で出かけて行った。
その女が最後に残した俺へのアドバイスは
『酔わせなさい』
わらをもつかむ思いで、今こうしてサロウとマッカでは数少ない酒場に向かっている。



「うっわ!めちゃくちゃ混んでんな」
「…凄く、腹減った」
ちょうど夕刻過ぎということもあってか、広い店内はごったがえしている。
「サグ。これは待ちそうだぞ」
サロウは腕組みをしながら店内を観察しているようだった。


暫くして通されたカウンター席に座ると案内をした店員がオーダーを聞いてきたので
「ビール2つ」
俺はそう答えて卓上に用意された水を口に含んだ。
「ハイ」
そう応えて慌ただしく店員が背中を向けたとき
「え!? あっすみません!!ちょっと待ってください!!」
これまた慌てた様子のサロウが上着も脱がずに立ったまま、ばさばさとメニューをめくりだした
「それと…今日のお勧め盛り合わせと、ダイズサラダと、卵焼きと、唐揚と、マッカレ―ポテト? と、それから・・・」
いっぺんに頼み過ぎじゃないのか、俺はあっけにとられて彼を見ていた。

ため息一つをついて、ようやく腰をかけたサロウが俺の視線に気付く
「あ、ごめん、何かほかに食べたいものあった?」
「はっ?」

はてな という表情を付き合わせる。

「えっサグ腹減ってんじゃないの? この混み具合だと料理出て来るの大分遅くなるぞ」
「そ そうか、」
それなら待っていればいいじゃないか。
そう言いそうになって止めた。 お前おっとりしすぎだろ!そう驚かれるのが目に見えているからだ。


この男は常に頭の中で電卓をたたいている。
どうすれば効率がいいのか、他人に喜んでもらえるか、迷惑はかからないか
時たま余計と思えることにも計算式を用意し、正確な答えと無駄のない行動を追求しようとする。
プライドが高く、とにかく負けず嫌い、だが少し


「あっ!うーわ、箸落とした」
ぬけている。



サロウの言うとおり、料理が運ばれてくるのには時間がかかった。
すきっ腹に酒ばかり入れるのは得策ではないが、喉も渇いているのだから止む負えない
2人とも最初の1杯を飲み干し、2杯目のグラスに口を付ける

ここにハニスタが居れば機関銃のように喋っていることだろう、2人だと静かなものだ。
「~♪♪~♪」
隣から小さく鼻歌が聞こえてきた、遠征で聞きなれたあの音楽
「ちゃ~ららっら らっら~ら~らら~♪ ぴよん♪」
「…レベル上がったな」
「うん」
俺が静かに笑うと、隣の男は楽しそうに声をあげて笑った。
この何とも形容しがたい柔らかな空気に、安らぎを感じる。
ハニスタが来る前はこうだったな
そんなことを懐かしく思いながら、ようやく運ばれてきた料理を受けとり、次の酒を注文するサロウを見る。
この男が何を欲しがるのか聞かずともわかる。そう答えることが出来たら、友人だと胸を張って言えるのだろうか

「あ、美味い!新しい味…なあドレッシングに何使ってると思う?」
俺のぶんのサラダをよそい差し出してくる彼に
「お前、今なにか欲しいものあるか?」
何の脈絡もない質問をぶつけてしまった。
「ん?」
「あ、いや。その。お前、新しいもの好きだよな。な。
何か気になるものとか、新しく行ってみたいところとかないのか」
自分を落ち着かせようとぐっとビールを飲み干す。
「あるよ、行きたいところ」
「本当か!」
これで自分の仕事は完了する!
そう期待した俺を裏切り、あいつはトイレに行ってしまった。





「長いな」
いくらなんでも遅すぎる。混んでいるとしても、トイレ滞在時間15分超えは異常だろう。
まさか、輩にからまれているのでは!
席を立とうとしたときサロウが見知らぬ中年と談笑しながら現れた
彼の知り合いだろうか、マッカでは珍しい服装をした、見たことのない男だ。

「サグ、紹介するよ、こちらナインさん。輸送業をしてるんだってさ、なあ一緒に飲んでもいい?」
使い古された灰のライダースジャケットを着た、なんとも胡散臭そうな男は俺を見てよおっと手をあげた
「どーも、サグ。俺ひとりなんだわ、混ぜてくれよ」

指輪だらけの手、煙草の匂い。

正直、断りたい。

「知り合いなのか」
「いやあさっきトイレで会ったばかりなんだけどさ」
サロウは笑いをこらえながら中年と向き合い
「「おんなじパンツ穿いてたんだよなあ!!」」
ぶわっはは!!と2人同時に腹を抱えて笑い出す
「・・・は?」
だから、なんだというんだ?
「つーわけでよ、愛好会しようってなったわけだ!あんたは?」
「は?」
すぐに返事を返すとこが出来ず困惑している俺を無視し、ナインは地酒を注文した
サロウは中央に座り、杯を渡しながら器用に俺へ耳打ちする。
『悪いな、でも輸送隊探してただろ、勉強してもらえるチャンスなんだ。お前は飲まなくていいから』
この人めちゃくちゃいい人だよ。 最後の笑顔で俺を納得させたつもりなのか
サロウは中年につきっきりになってしまった。


ナインが頼んだ地酒はアルコール度数が高く、クセのあるものだった
最初の1杯ぐらい飲み干さなくては、礼儀はわきまえているつもりだが、耐え切れずに俺は杯を置く。
「サグ大丈夫か? 悪酔いしないようにちゃんと食べろよ」
「いちいち世話をやくな」
「ははは、黒いのは弱ぇなあ」
  こいつ、俺を馬鹿にしている
品の無い笑い声を上げるナインに、ただただ苛立ちが募った。
態度にもあらわれているだろう、そんな俺をナインは気にした様子もなく、サロウにばかり酒を注いでいく
友人はそれを笑顔で受取り、綺麗に飲み干していくのだ。



2人で注いでは注がれ、空瓶が1本2本と増え、俺はすっかり蚊帳の外。
ナインもサロウも酒豪だ
ときに大きな笑い声をあげながら、互いから与えられる酒と会話を楽しんでいる。

酔っても、表情や態度に現れないのがサロウの強さでもあり、弱さでもある
あの強い酒をもう何杯飲んでいるのかわからないが、今日もその顔色にまったく変化はない。


完全にあの男のペースに飲まれていることに、もう少し早く気付いてやればよかった。




「サロウ」
咳込むようになった、その小さな変化に腕をつかむと、彼の体温の高さに驚く
その表情は既に苦しさを訴えていた。

この男が何を思って杯を合わせていたのか。
ここで俺はようやく察知する。

「おいおい、もう終わりかい。にいちゃん、俺を満足させてくれねぇの?」
ナインが煽るようにサロウの顔を覗き込めば、負けず嫌いな彼に火が付くのが容易にわかった
「もうよせ!」
静止の声は友人に届かず
「まだ、いけますよ」
ゲームは続行される。
挑むように、小さく笑顔を見せたサロウが男から受け取った酒を飲み干す
「貴方こそ、もう限界じゃないんですか?」
獲物を狙うような鋭さを持つ瞳を、違う色で侵す様
サロウの長い指によってナインの杯が満たされていく。それを高揚した様子で見つめる灰の瞳が一瞬
俺に向けられた


「行くぞ」
「え?」
弱く抵抗する友人を無理やり立たせてみれば、もう一人で立てないほど酔いは回っていた。
「やっめろ、もうちょっ 」
嫌がる男を無理やり胸に押さえつけ黙らせる。
「おいおいサグちゃ~ん。あんたも男ならわかるだろう、飲まなきゃいけない時があるくらいよお?」
   
自分より力ない者を見下す、その全てが俺に向けられる。
歯を食いしばったのは胸に寄りかかる男の方だった

早い呼吸に邪魔をされて、何も言い返すことが出来ずに 

「まったく理解できん」
何故こんな男にかかわったんだ!
引き摺るようにその場を離れさせ、サロウをトイレの個室に押し込んだ。




「お前、なにしてんだ」
手洗い場で背中をさすってやると、苛立ちばかりが大きくなった。
「サグこそ、どうしてまだここにいんの?ナインさん帰っちゃったかもしれないじゃないか」
「なんだと!」
お前は一体何を考えている!?
いつも言いたくなる台詞を今日こそぶつけてしまいそうになる
「どうして繋ぎとめてくれないんだよ!あの人は今の野良屋に必要な人なのに!」
「あんなクソ野郎に輸送隊を頼む気なんて全くない!!」

サロウと話していると、イライラする。隙だらけの他人を疑うことを知らない世間知らずめ
「まさかお前、アイツに遊ばれていたのに気付いてなかったのか!?」
「馬鹿にすん うッ」

膝を折り、苦しそうに口元を押さえた男に手を伸ばすが、頼られることは無い。

「はあっ 知ってて、のってたんだよ。
ごめん。もう少し・・・もう少しであの人の懐に入り込めそうだったのに
くっそ…あの人、絶対金も人脈も持ってる、もうちょっと頑張れれば、もうちょっとで、うちの力になったのに・・・なんで、頑張れなかったんだ…!」
まるでうわごとのような、弱弱しい声が続く

「もう、言うな」
プライドで生きている男の弱い部分など、見ていられなかった。
「お前は世間知らずだ、身の程を知れ。」


もう一度、手を差し伸べた俺へと彼の視線が上がる。


言葉無くまっすぐに向けられたのは
水が張りつめたような美しさと、燃えるような強さを持った純粋な青。


「サグ
力を持たない人間が、生きていくために渇望するものを得るにはどうすればいいのか、わかる?」


貫くようなそれに、胸が震えた。


この男は、他者を許すことで居場所を得ようとする、弱い人間ではない。
その瞳にはただ一つ決して揺るがないものがはっきりと見えた
他者が決して触れることはできない、それを守るために

「俺は、何でもできるよ」

彼は彼自身を切り捨てる。


「どんな手段を使ってでも、ほしいものは必ず手に入れてみせる」


恐れを受け入れ、信念のもと前へと突き進む、主ある者の双光。
思うように支配できずにいた男の跪くような姿勢に
底知れぬ陶酔感と、恐怖を感じた。




平和慣れした異邦の男は、戦闘に不慣れな全てを隠しながら
差し出した手を頼らないその体を踏み台にして、この地で高みを目指そうともがいている
心と命を削ってでも、自分の生き方を貫き通す覚悟を持って
俺の右腕になることを選んだのだ。




俺達の帰りを、ナインは煙草をふかして待っていた
「なんだまだふらふらしてんのかよ、少しはすっきりしてきたかい?」
口調も態度も変わらないが、先ほどの毒気に満ちた目は影を潜めていた。
「お待たせして、ごめんなさい」
困ったような笑顔を見せたサロウへ小さな紙切れが差し出された
「俺の本名と連絡先だ、傭兵さんの朝は早いんじゃねえの?坊やはもう寝な」
ひらひらと手を振って、また酒をあおり出す男に驚いた様子のサロウが詰め寄る
「でもっ俺は 」
「そんなに好いてくれるのは嬉しいけどよ、もうお前らの酒ねえんだわ」
見ると、俺の杯もサロウの杯もさげられており、会計も済まされていた。

「つまんねえお姉ちゃん相手に飲むよりは、まあまあ楽しかったぜ」
煙草をくゆらせるエンマクというその男は、俺達を見上げてからかうように笑った
「次は、もっと楽しく飲もうやボクサー。と、黒髪おぼっちゃん」
「 貴様」
つかみかかりたいが肩を貸している友人をほおり出すわけにはいかない
「有難うございますエンモクさん。それからご馳走様です!今後は輸送業もよろしくお願いいたします」
サロウがとびきりの笑顔でもって頭を下げる
その様子に満足したエンモクは、まずは出口まで送ってやる、という無駄な仕事をしてみせた。




「ああ、くそ。重かった…!」
ようやくたどり着いたベットにサロウを転がす
「うっぐ ほ、本当にごめんな、迷惑かけて」
まだ気分が悪そうな男は、寝ころんだまま申し訳なそうに俺を見上げた

「今日、楽しかった」
「は?」
「俺は楽しかったよ、格好悪いとこ見せちゃったけどさ、サグがいなかったらエンモクさん落とせなかっただろうし。サグがいたから、安心して甘えてしまいました。有難う」

「俺も、今日は楽しかった」
サロウのことを少しは理解できた有意義な夜だったとは思う。
言葉を合わせたのは、なんとなく サロウを安心させたいと思ったからだ
「便所が戦場に見えた」
だははは!と陽気な酔っ払いが笑う、その目に心を探るような脆い光を感じ取ることは出来なかった。


俺は彼を未だ信じ切れていない、彼も俺に心を開ききってくれてはいない。
彼を知れば知るほど、俺は孤独も知っていくのだろう。


「サグ」
俺にまっすぐ、サロウの右手が伸ばされる
頷き、その手を強く握ってやると、友人は安心したように目を閉じた。

初めてこいつが週末戦に選ばれた夜、暫く奥さんと再会出来ずに悩んでいた夜も
何も言わずに、ただこうしてまっすぐ手を伸ばしてきたことを思い返す。

思えばいつから、サロウは俺の世話を焼くようになった
いつから対等に見てくれなくなったのか。

「俺と、お前は友達だ。
 だから、何も気にするな」

明日になったら忘れてしまっているかもしれない相手に、ありったけの勇気をぶつけたなら
「フゥー」と
冷やかす声が返ってくる。

ふと開けられた青い目が照れくさそうに細められて、甘い笑顔が全てを満たした。




翌日。
役目を全うできなかった俺と、二日酔いで使いものにならないサロウが
ハニスタにどんな仕打ちをうけたかは、言わずもがなである。
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